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2025年04月30日

暗号資産(仮想通貨)の分離課税はいつ導入される?最新税制改正の展望と実務への影響【2025年4月版】

結論サマリー(30秒で理解)

•     2025年度改正はインサイダー規制が中心で、分離課税の導入は見送り濃厚か。

•     自民党web3ワーキンググループでは骨子案が提示済みで、実現は2027年度以降が有力とみられる。

•     導入時は「国内取引所 × 上場銘柄」に限定される可能性が高く、取引履歴管理の準備が重要。

 

インサイダー規制と税制改正の位置づけ

2025年3月30日付け日本経済新聞は、暗号資産(以下、仮想通貨)にインサイダー規制を導入する方向性を報じました。

文中では“暗号資産(仮想通貨)を金融商品として法的に位置づける”との記載がありますが、正確には既に暗号資産は金融商品として位置付けられています(金商法2条24項3の2号)。

今回の改正はインサイダー規制を新たに設けることで有価証券等と同様の規制を行うことを意図したもののようです(同166条、167条)。

このため、本改正によって税務上の取り扱いは直接的には変わらないものと思われます。

 

暗号資産(仮想通貨)の分離課税が導入される可能性はどの程度あるか?分離課税への期待

先立って自民党・デジタル社会推進本部のweb3ワーキンググループ(web3WG)が制度改正案を公開しています。

新制度案ではインサイダー規制の他にも多くの規制整備について触れられています。

分離課税といういわばアメとなる税制改正について国民の広い理解 を得るためにムチとしての規制強化が行われると捉えることができます。

実際のところ、暗号資産(仮想通貨)取引に対して分離課税が導入される可能性はどの程度あるか、気になりませんか?

増税が進められている昨今において減税となりうる改正が行われるのか、分離課税の導入が税収に与える影響について検討してみたいと思います。

第一に所得税について、多額の含み益のある暗号資産(仮想通貨)を保有している個人が売却したときの税額は減少することとなります。しかし、総合課税のままであれば、長期保有(いわゆるガチホ)していたはずの資産を売却したということであれば税収増となり得ます。

次に消費税について、暗号資産(仮想通貨)の利確により得られたキャッシュが消費に向かうとすれば税収増となります。

最後に法人税について、暗号資産(仮想通貨)取引所における取引が活発化することにより取引所の収益が増大するとすれば税収増となります。

この通り、税収面から見ても政府が本改正を行うメリットは充分にあるものと考えられます。

 

分離課税案のロードマップ(予想)

2024年12月 与党(自民・公明)税制改正大綱に「暗号資産課税の見直し検討」を明記 

2025年4〜8月 政府税制調査会が関係団体ヒアリング・論点整理 

2025年12月 2026年度税制改正大綱で制度設計の方向性を提示(想定) 

2027年4月 分離課税の実施(最速シナリオ)

 

暗号資産(仮想通貨)の分離課税導入時のメリット・デメリット

  ここで分離課税が導入された場合の納税者への影響をまとめると以下のようになります。

◎ 最高税率55% → 20%(住民税含めて一律約20%)となり、高額納税者の負担が大幅軽減。

◎ 年度ごとの総合課税累進率を気にせず、タックスプランニングが容易。

△ 複数取引所を利用している場合、取引履歴管理ツールは依然として必須と考えられる。※後述

× 所得税率5%層(年330万円以下)など、総合課税が有利なケースも依然存在。

× 海外転出時に含み益部分に課税。

 

暗号資産(仮想通貨)の分離課税が適用される条件とは?限定事項・範囲について考察します。

一般に暗号資産(仮想通貨)と言われるものは数千、数万とあるといわれており暗号技術、発行体、流通量等も様々です。これらをひとまとめに分離課税の対象とするのは現在の所得税法の体系上、考えにくいといえます。

それではどこまでを分離課税と対象とするか、考察します。

はじめに、分離課税の対象となるものとならないものを分ける手立てとして大きく以下の3つがあると考えられます。

  • 取引場所(取引方法)(国内取引所、海外取引所、DEX、相対取引)
  • 取引銘柄(CEX上場銘柄、時価総額や取引量)
  • 取得費(取得原価、売却原価)

ここで現行法における暗号資産の位置づけはどうなっているでしょうか。

資金決済法によると暗号資産とは「不特定の者を相手方」とできるものに限ることとなっています(同2条14項)。

また国内においては暗号資産交換業を行うためには登録が必要であり(同63条の2)、最近も金融庁から無登録業者への警告がなされています。

今後の規制強化の流れも踏まえると、国内取引所上場銘柄を国内取引所において新規に売買したときというのが分離課税の対象として有力なのではないかと考えられます。

つまり、暗号資産(仮想通貨)の銘柄毎への審査は上場時に行い、そのような規制が可能な国内取引所上場銘柄に限定することに加えて、取引の内容を捕捉できる国内取引所取引に限定するのではないかということです。

保有銘柄によってはあまり嬉しくないと感じる人もいるかもしれません。しかし一方で、需要が増すことで国内取引所の取扱銘柄が増えることも期待できるといえます。

また過年度に取得した暗号資産(仮想通貨)の取得費については、暗号資産取引所側では把握することができないため、分離課税の対象として認めない可能性が考えられます。

仮に過年度に取得した分も分離課税の対象とする場合には、概算取得費のように一律に算定し考慮するか、納税者が損益計算をした正確なデータがある場合に限り、認められる可能性は考えられます。 

源泉徴収制度(特定口座)の可能性

分離課税が導入されることになると将来的には株式等と同様に特定口座による源泉徴収制度が導入されるかもしれません。株式等の取扱いを参考にすると制度のイメージは以下のようなものになると考えられます。

  

 特定口座
(源泉徴収あり)
特定口座
(源泉徴収なし)
一般口座等  
暗号資産の範囲  ・当国内取引所の特定口座で購入したもの
・他の国内取引所特定口座から移管されたもの
・左以外のもの
(海外取引所、ウォレット保有分含む)
取得費の計算方法特定口座ごとに総平均法又は移動平均法で計算
※取引所側で損益計算
特定口座以外のもの全てを合算して総平均法又は移動平均法
※納税者側で損益計算
概算取得費の適用不可不可
課税方法源泉分離課税申告分離課税申告分離課税
申告義務なしありあり

ただし、暗号資産(仮想通貨)では複数取引所を用いて取引所間の送金を行うことが一般的ですから、取得費の計算を特定口座ごとに行うことには問題があるかもしれません。

このため、特定口座の開設は1社のみとする等の暗号資産(仮想通貨)独自の制限がかかることもあり得るのではないでしょうか。

よくある質問(FAQ)

Q. 海外取引所の損益はどう扱われますか?

A. 現段階では総合課税のまま残る可能性が高いです。金融庁の認可を得るなど、正確に取得費を計算できるようになった場合は一定の余地があると考えられます。

Q. NFTは分離課税対象になりますか?

A. NFTは暗号資産と異なり金融商品の枠組みではないため、対象にならないと考えます。 

Q. キャピタルゲイン以外のエアドロップやステーキング報酬は?

A. 「配当類似所得」として総合課税に残る可能性もありますが、雑所得枠で分離課税が適用される可能性が高いと考えます。  

まとめ

暗号資産(仮想通貨)に対する分離課税の導入はこのところ高まりつつあるため、大いに期待したいところです。

最近では米ドルへの信頼が揺らぎつつあり、これまでリスク資産として捉えられていた暗号資産(仮想通貨)の立ち位置にも変化があるとみる向きもあるため、分離課税導入への追い風となるものかもしれません。

分離課税が導入されたとしても、複数の取引所を利用する場合は、取得費計算・取引履歴管理といった実務負担は残ります。当事務所ではCSVデータの整理から税額シミュレーションまでワンストップでサポートしております。

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