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2024年09月19日

暗号資産(仮想通貨)税務のよくある質問 ~法人設立編~

暗号資産(仮想通貨)に特化して税理士を行っていると、様々な暗号資産に関する税金の相談を受けます。

今回はよくある暗号資産(仮想通貨)の税金の質問について、いくつか紹介していきたいと思います。

~法人設立編~

昨今、SNSで個人の所得税・住民税は55%課税されるため、法人で節税ができるといった情報をもって弊所に相談いただくことが多々あります。

これらは半分本当で、半分は適さないことがあります。いくつか事例を記載していきます。

個人の利益を法人に付け替えできる?

よくある質問の一つです。

まず結論から伝えると、法人と個人は別人格であるため、法人に暗号資産(仮想通貨)を譲渡した時点で利益確定となり課税されます。利益確定なしに法人に譲渡することはできません。

一方で法人への貸付は利益確定とはなりませんが、個人法人間の取引は恣意性が高く租税回避としてみられやすいため、税務調査時に問題となるリスクが高いことや貸借であるためいずれは個人に返却しなくてはならないことに気を付けておくことが大切です。

個人から法人へ移転した場合は、以下の点に留意する必要があります。

  1. 実質的な売却取引とみなされる:
    • 個人から法人に対して暗号資産(仮想通貨)を移転する行為は、通常、売買と同様の扱いとなります。貸付行為である場合は合理的な理由および主張できる資料を準備しておく必要があります。
  2. 時価での評価が必要:
    • 個人から法人への暗号資産(仮想通貨)の譲渡の計算は、原則、譲渡時点の時価によることとなります。そのため、個人の所得税では時価に基づく雑所得が発生し、含み益に対して課税されることになります。
  3. 無償譲渡のリスク:
    • 仮に適正な対価を伴わない移転を行った場合、税務上では低額譲渡もしくは無償譲渡として取り扱われる可能性があります。この場合、個人にはみなし譲渡として雑所得が認識され、さらに法人には受贈益が計上されることになります。

このため、通常の売買として扱う場合に比べて税負担が大きくなる可能性があるため特に注意が必要です。

法人設立した方が、個人の税金より安いって本当?

一般的に、節税目的で法人が設立されるという話がよくされることや、実際に最高税率は法人の方が低いことからこのように考える方は多くいます。

しかし実際には、以下のような理由により法人設立したほうが個人の税金より安いとは一概には言えません。

  1. 個人の所得に応じた税率の違い
    • 個人の場合、暗号資産による利益は雑所得として総合課税の対象となり、累進税率(5%~45%)が適用されます。これに対して、法人税率は基本的に一定(事業税等合わせた場合の実効税率は約35%)であり、また事業規模や所得に応じてより低くなる場合もあります。したがって、個人の他の所得が高い場合、法人での取引の方が税率が低くなる可能性がありますがそうでない場合も十分にあり得ます。
  1. 法人での利益は直接個人に帰属しない
    • 法人で得た利益は直接的に個人のものにはなりません。個人がその利益を利用するには、役員報酬や配当として法人から個人へ支給する必要があります。役員報酬には所得税や住民税が課され、また社会保険料の負担も生じます。法人税支払後の利益を原資とする配当にも所得税・住民税がかかり、二重課税の問題が発生することもあります。
  1. 法人のその他の税務処理
    • 期末時価評価: 法人は原則的に期末時に暗号資産(仮想通貨)の時価評価を行う必要があります。このため納税資金の管理が重要となります。
    • 繰越欠損金: 法人では損失を10年間にわたって繰り越すことができます。将来利益が発生した際に繰越欠損金を利用して、税負担を軽減することが可能です。
    • 繰戻し還付: 1年間の赤字を前年度の黒字に対して繰り戻すことで、過去に支払った法人税及び地方法人税の還付を受けることができます。

実際にご相談があった事例としては、個人のお客様で数年間続けて暗号資産(仮想通貨)取引を行っており毎年赤字であったものの今年大きな利益が出たため確定申告を依頼したいというものがありました。累計での利益額はそれほど大きくないものの過去に生じた雑所得の赤字は切り捨てられてしまうため、過大な税負担を強いられてしまうということがあります。法人で青色申告をしておけば繰越欠損金や繰戻し還付を活用することで数年間累計したときの利益に見合った税負担で済むということになります。

個人と法人での税負担は、個人の所得状況、法人としての運営コスト、社会保険料の負担、法人に認められる税務特典など、様々な要因によって異なります。税務コストだけでなく、事業の規模やトレードスタイル、長期的な戦略を考慮したうえで、法人設立が有利かどうかを判断するのがよいでしょう。

法人は期末に保有している暗号資産(仮想通貨)の時価評価だけだから簡単?

法人においては長期保有目的の暗号資産(仮想通貨)でも、(必要な措置を講じなければ)原則的に期末時点で時価評価をする必要があります。そのため、利益確定行為をしない個人に比べてより大きな利益が発生してしまうケースが生じ得ます。ここでよくある考えとして、「期首と期末の暗号資産+預け金の差額で損益が計算できるのだから損益計算の手間は逆に減るのではないか」というものがあります。

しかし実際には以下の理由により、法人における暗号資産(仮想通貨)取引の損益計算が個人よりも簡単になるとは言い切れません。

  1. 商品やサービスの購入に充てられた金額の把握が困難な場合
    • 法人が暗号資産(仮想通貨)で商品やサービスを購入した場合、その取引金額が正確に把握されていないと、経費として計上すべきでないものが暗号資産(仮想通貨)取引に係る損益に含まれてしまう可能性があります。これにより、損益計算が不正確になるリスクがあります。
  1. 適正な記帳が求められる
    • 法人が青色申告を行うためには、適正な記帳が必要です。期末時価評価の有無にかかわらず、取得価額の算定には移動平均法または総平均法を用いる必要があり、これに基づいた損益計算が求められます。

上記の問題から、仮に期末の暗号資産(仮想通貨)残高を正確に把握しており時価評価を適切に行ったとしても適正な損益計算ができているとは限らないことになります。

このため期末時価評価が導入されているため法人の暗号資産(仮想通貨)取引における損益計算が個人よりも簡単になるとは言えません。

むしろ、法人においては適正な記帳がより強く求められ、取引内容の把握が重要となります。

このように暗号資産(仮想通貨)の正確な損益計算を行うには、法人による暗号資産取引を網羅的に把握し、適切に対応する必要があります。

弊所の実績

ホワイトテック会計事務所は2017年度より暗号資産に特化して税理士業務を行っており、税務調査の経験も豊富にあります。また国内初であろう暗号資産(仮想通貨)に関する税務訴訟に補佐人として関与しており、毎年の暗号資産に関する税法改正をキャッチアップするだけでなく、日々より深度の高い税務検討を重ねています。法人設立についてのご相談も多く頂いている他、設立後の顧問のご依頼(税理士交代)も増えています。機械的になりがちな税務の世界ですが、そもそも法人を設立すべきかどうか、設立する場合は法人を活用した戦略的な提案をさせて頂くことも可能です。是非お気軽にお問い合わせください。


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