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暗号資産の相続税評価|評価額の決め方・換算レート・計算例を専門税理士が解説【BTC・ETH・NFT・DeFi対応】
CONCLUSION / 結論
暗号資産の相続税評価は、原則として「相続開始日(被相続人の死亡日)」における時価で行います。国内取引所のメジャー通貨は取引所公表価格、海外取引所はその取引所価格を合理的に円換算、NFTやマイナーアルトコインは個別事情に応じた評価が必要となり、判断が分かれる論点も少なくありません。
本記事では、保管場所別の評価方法、換算レートの選び方、具体的な計算例、納税資金の確保まで、暗号資産相続の現場で実務に当たる税理士が体系的に整理します。
暗号資産(仮想通貨)の相続が発生したとき、最初の難所が「暗号資産の網羅性把握」、次の難所が「相続税評価」です。価格が秒単位で変動する暗号資産を相続税法の枠組みでどう評価するのか、この点で迷われるご家族・実務家は非常に多くいらっしゃいます。
評価額の決め方を誤れば、後の税務調査で否認されて修正申告・追徴課税につながりかねません。逆に、評価ルールを正しく押さえれば、納税資金計画やその後の売却戦略まで筋道を立てて準備できます。
本記事では、暗号資産相続の現場で実際に評価業務を行っている税理士の視点から、保管場所別の評価方法・換算レートの実務・具体的な計算例・税務調査リスクまで一気通貫で整理します。なお、相続発生時にまず行うべき「資産の網羅性把握」については姉妹記事「暗号資産の相続で家族を困らせない|全資産を漏れなく把握するための完全チェックリスト」で詳しく解説していますので、未読の方はそちらから先にお読みいただくことを推奨します。
【この記事でわかること】
- 暗号資産の相続税評価の大原則(評価基準日・評価方法)
- 国内取引所/海外取引所/自己管理ウォレット/NFT/DeFiの評価方法
- 円換算レートの選び方と実務上の留意点
- BTC・ETH・NFTのパターン別の計算例
- 評価額が大きい場合の納税資金の確保策
- 税務調査で問われやすいポイントとその備え
- 実務でよく直面する評価の悩みと対応事例
目次
1. 暗号資産の相続税評価の大原則
相続税法上、財産は「時価」で評価することが原則です(相続税法22条)。
暗号資産は、相続税法上「財産」として課税対象になります。「相続開始時(被相続人の死亡日)における時価」で評価されます。
財産評価基本通達には、暗号資産そのものを対象とした個別の評価規定は設けられていません。そのため、相続税・贈与税の評価においては、同通達5「評価方法の定めのない財産」の考え方を前提に、国税庁が公表している「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(情報)」等で示された取扱いも踏まえ、暗号資産の種類や取引実態に応じて評価することになります。
1-1. 評価基準日は「相続開始日」
評価額を確定させる基準日は、被相続人の死亡日(相続開始日)です。前後の日付ではなく、死亡日当日の価額で評価します。実務上は、暗号資産交換業者が発行する残高証明書に記載された取引価格や、同業者が公表する死亡日当日の取引価格を確認し、採用した価格・時点・取得方法を説明できるように資料を保存しておくことが重要です。
1-2. 評価額は「時価」
評価額は、相続開始日における時価です。具体的には、被相続人が暗号資産を保管していた取引所の公表価格(終値または公表気配値)を用いるのが基本となります。複数の取引所に分散して保有していた場合は、それぞれの取引所価格で評価します。
1-3. 取得価額(簿価)は相続人が引き継ぐ
相続税評価とは別に、所得税の世界では「被相続人の取得価額」をそのまま相続人が引き継ぎます(移動平均法/総平均法の継続使用)。相続後に相続人が売却すると、この簿価との差額に所得税(雑所得・総合課税)が課されます。相続税と所得税のダブル課税論点は、本記事末尾のFAQでも触れます。
POINT / ポイント
「相続税の評価額」と「所得税上の取得価額」は別物。前者は死亡日の時価で確定、後者は被相続人の簿価をそのまま引き継ぐ――この二段構えを理解することが、暗号資産相続税務の出発点です。
2. 保管場所別の評価方法
「どこに保管されていたか」によって、評価のしやすさも価格情報の入手方法も大きく変わります。実務上は次の5パターンで整理すると見落としがありません。
| 保管場所 | 評価額の決め方 | 価格情報の入手元 | 難易度 |
|---|---|---|---|
| ①国内取引所のメジャー通貨 | 当該取引所の死亡日終値 | 取引所への残高証明依頼/取引所アプリ | 低 |
| ②海外取引所 | 当該取引所の死亡日終値を合理的に円換算 | 取引所サイト/API/CSV履歴 | 中 |
| ③自己管理ウォレット(メジャー通貨) | 主要取引所の死亡日終値を採用 | bitFlyer・Coincheck・GMOコイン等 | 中 |
| ④NFT | 個別評価(直近販売実績・フロアプライス等) | OpenSea・Blur・取引履歴 | 高 |
| ⑤DeFiにロック中の資産 | 原資産+累積報酬を個別評価 | DeBank・Zapper等のダッシュボード | 極高 |
2-1. 国内取引所のメジャー通貨は最もシンプル
bitFlyer・Coincheck・GMOコインなどの主要国内取引所に預けられていたBTC・ETHは、その取引所の死亡日終値で評価します。多くの取引所は相続専用窓口を設けており、「相続開始日時点の残高証明書」の発行依頼に応じてくれます。証明書の数値をそのまま評価額とできるため、もっとも実務がスムーズに進むパターンです。
2-2. 海外取引所は円換算の合理性が論点
Binance・Bybit・Bitget等の海外取引所は、現地通貨建て(USDTやUSD建て)で価格表示されることが一般的です。死亡日の取引所価格(円建てがあれば円建て、なければUSDT建て)を取得し、合理的な為替レートで円換算します。為替レートはTTM(仲値)・TTS・TTBのいずれを採用したか、根拠を残しておくことが重要です。
2-3. 自己管理ウォレットは「客観的な公表価格」を採用
MetaMaskやハードウェアウォレットに保管されていたBTC・ETHなど、特定の取引所に紐づかない暗号資産は、客観的な公表価格を採用します。実務では、主要な国内取引所の死亡日終値(または平均値)を用いるのが一般的です。複数取引所の価格を平均する場合は、対象取引所を選んだ根拠(流動性・取扱量・国内主要等)を文書化しておきます。
2-4. NFTは個別評価で慎重な判断が必要
NFTは現状、画一的な評価ルールがありません。実務上は、(a) 同一NFTの直近販売実績、(b) 同一コレクションのフロアプライス、(c) 出品中であれば直近の指値、(d) 0円評価(売買実例の不存在、流動性の欠如、アクセス不能性などを示す客観資料を整理したうえで、個別に慎重な判断が必要)、を組み合わせて個別判断します。アートNFTのように高額・流通性が乏しい銘柄は、評価額の妥当性を客観資料で示せるかが税務調査の論点になります。
2-5. DeFiにロック中の資産は「原資産+累積報酬」
Lidoのstaked ETH、Aaveのレンディング、Uniswapの流動性提供などにロックされている資産は、原資産の価額に未受領の累積報酬を加算して評価します。LPトークンは、構成資産(例: ETH+USDC)に分解して両方を評価する形が実務的です。インパーマネントロスを考慮するかは見解が分かれるため、保守的に時価ベースで評価するのが安全です。
CAUTION / 注意
NFTやマイナーアルトコインを「価値ゼロ」で評価することは、客観的な根拠が乏しい場合に税務調査で否認されるリスクがあります。流通性ゼロを示すスクリーンショット・取引履歴等の証拠資料を必ず保管してください。
3. 円換算レートの選び方と実務
海外取引所の資産や、USDT建て・USD建てで価格表示される銘柄は、円換算が避けられません。為替レートの選び方には実務上の慣行があります。
- TTM(仲値):銀行公表のTTBとTTSの中間値。評価額算定では最も無難で広く採用されている。
- TTS(電信売相場):銀行が顧客に外貨を売る際のレート。納税者に不利な高めの円換算となり、評価額算定には通常使わない。
- TTB(電信買相場):銀行が顧客から外貨を買う際のレート。納税者に有利だが、合理性の説明が必要。
- 取引所自身の換算レート:取引所が円建てで価格を提示している場合は、その価格をそのまま採用する。
採用レートは三菱UFJ銀行・みずほ銀行などの大手行のTTMを用いるのが一般的です。同一相続案件内では、原則として同じ銀行・同じ種類のレートを継続採用し、根拠資料(為替レート表のスクリーンショット)を保管しておきます。
4. パターン別の評価額計算例
具体的なイメージを掴むため、典型的な3パターンの簡易計算例を示します(数値は説明用の仮の値です)。
4-1. 国内取引所のBTC(最もシンプルなケース)
状況:被相続人が国内取引所にBTC 2.5枚を保管。死亡日(2026年6月15日)の取引所終値が1BTC=1,500万円。
評価額:2.5 × 15,000,000 = 37,500,000円。取引所発行の残高証明書に記載された数値をそのまま使えるため、立証も容易です。
4-2. 海外取引所のETH(USDT建て価格+円換算)
状況:被相続人がBinanceにETH 20枚を保管。死亡日の取引所終値が1ETH=3,200 USDT。同日のTTMが1USD=153.50円(USDTはUSDに連動するため近似値で換算)。
評価額:20 × 3,200 × 153.50 = 9,824,000円。為替レート採用根拠(三菱UFJ銀行のTTM等)を残しておきます。
4-3. NFTコレクション(フロアプライス採用)
状況:被相続人が国内発NFTコレクション3点を自己管理ウォレットに保有。同コレクションの死亡日時点のフロアプライスが0.05 ETH/点、ETH価格が1ETH=50万円。
評価額:3点 × 0.05 ETH × 500,000円 = 75,000円。流通性が高くフロアプライスでの売却が現実的な場合に採用可能。直近に類似銘柄の取引実績があればその価額も参考にします。
5. 実務でよくある評価の悩みと対応事例
当事務所が暗号資産相続のご相談で実際に直面する、評価実務上の典型的な悩みを4つ整理します(個別事例の特定を避けるため、内容は一般化しています)。
ケース1|価格情報が取得できない上場廃止トークン
過去に上場していたが現在は流通停止・上場廃止になったマイナートークンが、自己管理ウォレットに残っているケースです。原則は時価評価ですが、取引市場が消滅していて売却不能な場合は、過去の最終取引価格・廃止前のフロアプライス・客観的に売却不能であることを示す資料を組み合わせ、合理的な範囲で評価額を決定します。0円評価とする場合も、「なぜ0円なのか」の客観資料が必要です。
ケース2|複数取引所で価格に大きな乖離がある
同一コインでも国内取引所と海外取引所で5〜10%程度の価格乖離が生じることがあります。実務上は、被相続人が実際に取引を行っていた取引所の価格を採用するのが原則。自己管理ウォレットの場合は、流動性が最も高い取引所(または複数取引所の平均)を継続採用します。「都合のいい価格」を選んだと見られないよう、選定根拠の文書化が重要です。
ケース3|DeFiの未請求報酬を見落としていた
ウォレット残高だけを見て申告したものの、Lidoのstaked ETHや Aaveのレンディング報酬が別途あったというケースです。DeBank等のオンチェーンダッシュボードで全体を可視化していなかったことが原因。後の税務調査で発覚すれば修正申告が必要になるため、評価段階でオンチェーン全体のスクリーンショットを保管することが重要です。
ケース4|相続発生から申告期限までに価格が大きく変動
相続開始日から申告期限(10ヶ月)までの間に暗号資産価格が大幅に下落し、評価額に基づく相続税の納税資金が足りなくなったケースです。相続税は死亡日の評価額で確定するため、価格下落リスクは相続人が負います。納税資金確保のため早期売却の判断、または延納・物納の検討が必要になります(暗号資産自体は物納対象外)。
EXPERT NOTE / 実務メモ
いずれのケースも、評価判断の客観資料を「相続開始日近辺の状態で」保管しておくことが事後対応のしやすさを大きく左右します。スクリーンショット・取引履歴のCSV・残高証明書等は、相続発生の認知後すぐに収集することを推奨します。
6. 評価額が大きい場合の納税資金の確保
相続税の納税は原則として日本円の現金で行います。暗号資産しか相続財産がない場合、納税資金を確保するために相続人が売却することになりますが、ここで二重の問題が発生します。
- 所得税の追加課税:相続人が売却すると、被相続人の取得価額との差額に所得税(雑所得・総合課税、最大55%)が課される。
- 価格変動リスク:相続開始から納税期限(10ヶ月)までの間に暗号資産価格が下落すると、評価額に基づく相続税は変わらず、納税資金だけが足りなくなる。
実務的な対策としては、(a) 相続発生後速やかに必要額だけ売却して納税資金を確保する、(b) 暗号資産以外の資産(預金・上場株式)を取り崩す、(c) 物納(暗号資産は対象外なので不可)、(d) 延納の申請、などを組み合わせて検討します。とくに「相続後すぐ売却したら所得税が膨らんで二重課税のように感じる」というご相談は非常に多く、令和8年度税制改正大綱では特定暗号資産の分離課税化など改善の方向性も示されています。
7. 税務調査で問われやすい論点と備え方
暗号資産の相続税申告は、税務調査で重点的に確認されやすい領域です。実務上、特に問われやすい論点は次の4つです。
7-1. 申告された資産の網羅性
銀行履歴・海外送金記録・過去の確定申告(雑所得欄)と申告内容の整合性が確認されます。「銀行から海外取引所へ大きな送金があるのに、相続財産には海外取引所の残高が計上されていない」といったケースは、ほぼ確実に深掘りされます。姉妹記事「資産網羅性チェックリスト」で解説した網羅性把握が、ここで生きてきます。
7-2. 評価額の根拠(採用した価格・取引所・換算レート)
採用した取引所価格・換算レート・参照日付の根拠資料が求められます。スクリーンショット、取引所からの残高証明書、為替レート表など、後から検証可能な形でファイリングしておきます。
7-3. NFT・アルトコインの評価妥当性
「価値ゼロで評価」と申告した銘柄について、本当に流通性がないのかが問われます。逆に高額で評価した場合は、フロアプライスや取引履歴等の客観資料が必要です。
7-4. DeFiのロック資産・未受領報酬
ウォレット残高には現れない「ロック中」「未請求報酬」の計上漏れがないかが論点になります。DeBank等のダッシュボードのスクリーンショットを死亡日近辺で取得・保存しておくと、後の説明が容易になります。
8. よくある質問(FAQ)
Q. 死亡日が取引所のメンテナンス時間でした。どの日の価格で評価しますか?
暗号資産取引所は基本24時間365日稼働しており、長時間のメンテナンスは稀です。価格情報が取得できない時間帯にあたる場合は、直前または直後の合理的な時点の価格を採用し、その根拠を文書化します。複数取引所の同時刻価格と比較しても合理的であれば、客観性が高まります。
Q. 相続税と所得税の「二重課税」になりませんか?
形式上は両方の課税が発生しますが、所得税の計算で被相続人の取得価額が引き継がれる点で一部調整がされています。それでも実質的な負担感は大きく、令和8年度税制改正大綱では特定暗号資産の分離課税化(20.315%)や取得費加算の特例適用などが議論されています。最新動向は税理士へご確認ください。
Q. 秘密鍵を紛失して引き出せない暗号資産は0円評価で良いですか?
ブロックチェーン上に資産が残存している以上、安易に0円評価とすると税務調査で否認されるリスクがあります。原則は時価評価しつつ、引き出し不能の客観資料(ウォレットアドレスへの長期間アクセスがないこと、復元手段が完全に失われていることの証明等)を整え、専門家と協議のうえ判断するのが安全です。令和8年度税制改正大綱でも本論点は明示的に整理されておらず、今後の通達・実務動向を注視する必要があります。
Q. ステーキング報酬のうち、まだ受け取っていない(未請求)分も評価対象ですか?
はい、相続開始日時点で受領可能な状態にある未請求報酬は、原則として相続財産に含めて評価します。Lidoのstaked ETHのように、報酬がトークンの増加として反映される設計の場合は、その時点の数量×時価で評価します。
Q. 海外取引所が相続手続きに半年以上かかります。申告期限に間に合わない場合は?
申告期限(相続開始から10ヶ月)までに残高が確定できない場合でも、いったん合理的な見積額で申告し、後日確定額が判明した時点で修正申告等するのが実務的な選択です。期限延長の手続きもございますが、例外的な取扱いであり、単に海外取引所の手続きに時間を要しているというだけで当然に認められるものではありません。
Q. 暗号資産の相続税申告は、暗号資産に詳しくない税理士でも対応できますか?
形式上は対応可能ですが、評価・換算・DeFi/NFTの取扱い・税務調査対応など実務論点が多く、対応経験のない事務所では結果的に申告漏れやリスクの取り残しが起こりやすい領域です。暗号資産部分だけでも暗号資産に明るい税理士へ相談することをお勧めします。
9. まとめ|評価ルールの押さえどころ
暗号資産の相続税評価は、保管場所ごとに「客観的な価格情報をどこから取るか」と「円換算をどう合理的に行うか」を丁寧に固めれば、概ね手順化できます。難所はNFTやDeFiといった一般的な評価ルールが未確立の領域で、ここは個別判断と客観資料の整備が勝負どころとなります。
本記事は相続税評価のフェーズに焦点を当てていますが、相続実務全体の流れは「網羅性把握 → 評価 → 申告 → 納税」の4段階。最初の段階「網羅性把握」については姉妹記事「暗号資産の相続で家族を困らせない|全資産を漏れなく把握するための完全チェックリスト」で詳しく解説していますので、合わせてご覧ください。
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【免責事項】本記事は執筆時点の法令・通達・国税庁FAQに基づく一般的な税務情報の提供を目的としており、特定の銘柄や取引の推奨・投資助言ではありません。実際の税務判断は個別の事実関係により異なるため、必ず税理士へご相談ください。
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